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189号 私の好きな芸術家

189号 私の好きな芸術家

狂いが生じる痕跡の   松尾真由美



あの
涙のあと
歩き方と処し方とを
判じることはできなくて
覚束なくあたりまえの自由はつねにたずさえつつ
うすい雲の嗚咽のように変形をきざすささやかな事柄たち
かためて握る手にあわせ

 間違っていく ずれていく
     崩れていく 逸れていく いつのまにか
         寄せては返す潮の満ち引き 
               冷ややかな断崖が見えてきて

         ふわふわっと
             海鳥が飛びたがって

けれども狂いが生じて偽りが偽りでなくなることの頑丈な虚構の檻を
誰だって喜んではいられないからゆるやかな告白の形をとる臆病さを
笑えるか笑えないかあなたの哀しい血の切り口は塞がることもなくて

 問いつづける 潜りつづける 
   掲げつづける 探りつづける ふさわしいことしかできず
         あざやかな水平線があれば海も空も
              きっといつも麗しく優しくて

            安らぎを錯覚する

かならずはみ出す霞の重さを華々しくもあなたは譲ってくるごとく 

         ふわふわっと
              死んでいく
                 海鳥がいる

夜風   岩佐なを



夜気を纏って
さまよう風になった
朧月夜のうらぶれた横丁には
初めてひとり酒を呑んだ
店があって路地をなぞると
前に落とした片手袋を見つけた
おもえば生涯いくつの手袋を
無くせば気がすむのか
両方をいちどきには落とさない
片方だけのせつなさ
なつかしく拾い上げたものの
ちがう。中には他者の指が
おさまっていたおもむき
健やかな五本がうらやましい
人肌で血のかよった形を永く
庇い続けたかっただろうに
恭しく鉢植えのもとへ置き去る
大川沿いの小径へ出る
あのひとり酒の頃
早めに酔ったあとこの川を
船に乗って下った
残照は郷愁にお誂え向きだった
次の幻橋の上からは
思い返せばしたわしい
ひとたちが静かに
蒼白の手をゆらゆら振っていた
応えようもなく
ふるえる口笛に似せて
風を鳴らしてみたかった
哀惜の
脆い夜風を

瑞宝寺公園   都 圭晴



明日に
今日が続けばいい
今日が
昨日から来たように

枝垂れかかる紅(あか)を見て
母は、きれい
とほころんだ

家族四人で歩く有馬は
見上げると
空の傾斜で
紅葉(もみじ)は流れる

思い出したように落ちる
掌(てのひら)のかたち
心の温度で
かさなっていく

久しぶりの旅行
ステージ4の癌から
回復した母と
再発する危険に
晒されている母

紅葉はいつまでも
空に浮かびはしない
四人で写真を撮る

撮った後 写真を見て
おばあちゃんになってしまった
と言う母が
くるくるとまわる
わんこを見て
わらう

僕もゆっくり
空を見ながら
紅葉を連れて
まわる

紅葉は落ちゆく
青い空が
ぽつんと落とし
去っていく

空   森田好子



こんなことってあるだろうか
空が真っ二つに割れている
車に乗っていると空の一直線が追いかけてくる
ビルの屋上に駆け上がり立ち尽くす

一生一度かも知れない
どこまでも どこまでも
青い空の上に雲
母に何かあったのだろうか
不吉な予感
思わず手を合わせる

 どうか何事もありませんように

ありがとうの別れ   森田好子



 母危篤すぐ帰れ
介護を一手に引き受けてくれた姉からの連絡
母のもとへ急いだ
額 頬 温かい体
溢れ出る感謝の想いを伝えた
見えないはずの目を大きく見開き見つめている
涙でにじんだ母の目頭を拭いていると
フェイスシールドが曇って見えなくなる

一日遅れで岡山の姉が駆け付けた
 お母さん言っていることが分かったら笑って
すると唇が動いた
まさか
 言っていることが分かったら笑って
また唇が上がった
 すごい分かってくれてる と叫んでる
コロナ禍時間ですよ の合図
お母さんまた来るからねと言った瞬間
 あー
渾身の力で声を上げた
 ありがとうと言ってくれている
 お母さんこちらこそありがとう

それから数時間も経たないうちに
 あなたは 九九歳まで子や孫の栄を見てゆっくり来なさい
と言った父のもとへ旅立った

母の幕引きの言葉
ありがとう
ありがとう
そして
ほほえみ

弔いの日   森田好子



火葬場から出る時は小雨
車はお墓へゆっくりと走る
雨はどんどん激しさを増す
やがて雷は轟き 土砂降り
誰一人車から降りることができない
弟に抱かれ小さくなった母

 こんなにも泣いて叫んで
 別れを惜しんでいる

窓ガラスを開けて天に掌を向けて話した

 お母さんわかったよ
 みんな気持ちは一緒だよ
 もう泣かないで

するとやがて小雨に
九五年間の思い出深い故郷で永遠の眠り

 あの世でも極楽してください
 大好きだよ

私の胸の奥に燠(おき)が点(とも)っている   高丸もと子



 正月の用意でもち米を蒸す時 竈で火の番をするのが子どもらの役目だった。
いい塩梅なところで薪をくべるだけで、あとは温まっているだけでよかった。
割烹着をつけ、頬かむりをした母や叔母、近所の人たちが忙しく土間を跨いで
は行き来していた。
 蒸し終わると庭に出て近所のものみんなで餅つきが始まる。婆さんの合いの
手が杵の合間を上手くぬっていくのを見ていた。つき終わった餅は縁側で大根
おろしにして好きなだけ食べることができた。
 退屈になってきたので私は土間に入っていった。賑やかだった土間は薄暗く
冷やっとした空気に変わっていた。表からはまた賑やかに餅つきが始まってい
る。竈をのぞくと消えかけの燠が灰を被って揺れていた。それをつつくと怒っ
たように瞬間赤く燃え観念したかのようにまた静かになった。
 燠が生きているような気がした。

    *

私の胸の奥に燠が点っている
あの時の燠がまだ消えないで点っている
大人たちは私に燠の番を頼んでみんな逝ってしまったのだろうか

私の燠は燃えたがっている
私は燃やしてやりたいと思う
でもそれより燠のままでいい
小さな燠だけれどだれかにあげたいと思う
そしてその人を温めてやりたいと思う

氷の街   牛田丑之助



溶ける氷は
暖かい
瀕死の僕は
意識の消える悦びに震えるが
祈りは浄化されない
祈りは気高いだけで
天国への門を開けない
君の手も屍の冷たさで
笑顔は強張り
だから僕はこのまま静かに
氷柱になる
そして君は僕の知らないバスに乗り
氷の都へと旅立つ
窓から手を振ってくれたように見えたが
次の瞬間に硝子は結晶になっている
街に残った僕は
溶ける氷のように
冷たさを感じ
暖まっている
誰もそのことを教えてくれないが
そうであればいいなと
思っている

戦争の波   水崎野里子



波は来る
来るはずのない
東京湾に来た
鯨のように

冷たいはずの 
冬の波
大波 小波
背鰭が見え 

黒い尾が見えた
体調10メートル
以上
湾の潮の中

浮いたり
潜ったり
あなた 悪魔?
それとも侵入者?

いつか
思わぬ時に
鯨はやって来る
人間を飲み込む

街を飲み込む
市民を 女を
子どもを飲み込む
海に吐き出す

背骨を 頭蓋骨を
街の残骸を
ビルの鉄骨を
かって人が生きていた
生活のガラクタを

気候変動と共に
世界の状況も変化する
見たこともない
大きな鯨が来た

戦争は突然来る
波動のように
津波の予兆のように
静かだった村へ

団欒の食卓へ
帰れ!
帰る場所がなければ
眠っていろ!

白いプランクトンの
吹雪が舞う
深い 暗黒の 
海溝の底で

死人のように
亡霊のように
二度と浮き上がるな
過去の幽霊のように

ドライフラワー   水崎野里子



ウクライナ侵略
きのうで一周年
テレビで見た  
街の風景
ミサイル攻撃
黒焦げ
いびつ
突きでる針金
歪んだアパート

ガラスのない

かけた窓枠
傾いだ
部屋
人気(ひとけ)はない
もう焔はない
過去の
愚行の
亡霊
焦げた骸骨

黄色い部屋
かつて家族が住んでいた
かつてそこで
黄色いテーブルを囲み
母親は大きなケーキを焼いた
息子のために
少年は蝋燭を吹き消した

黄色いペンキを塗った 
父親はもういない
部屋に扉も窓もない
過去は容赦ない力で
一本の
ドライフラワーと
なる
人間は
ドライフラワーとなる前の
一瞬の


今日の朝
公園で
葉の枯れた
小枝を拾ってきた
捨てられていた
寒い風のなか
帰って
花瓶に差した

大豆の品格   平野鈴子



気になっていた広大な田園風景は
まるでパッチワークのような区画であった
夫の新車を走らせて行った先は
農家の玄関先の無人直売所
色とりどりの蔬菜の品揃え
迷うことなく黄色がかった大粒の大豆を手にした
支払は古びた空缶にポトリポトリ入れるだけ
灼熱の夏を乗り切り牙をむいた台風さえ乗りこえた
私は満ちたりた時間に向きあうことにした
一昼夜吸水させた大豆は大きく豊かに膨らむ
あすは「五目豆」に仕立てよう
火を入れるほどに豆の青臭さが遠のいていく
昆布・蒟蒻・牛蒡・筍・人参に調味料を加え味をふくませる
甘みが広がりコクのある旨味に移行していく
素材の味が確立され
ゆるぎない大地の恵みの尊い逸品
素朴なまでの一本気な大豆の主張に私の舌は
降参するしかなかった
大豆との名残り惜しさに立て続けに
「えび豆」も炊いた
寒(かん)が旬の川海老は加熱するとピンクに染まり
ふくよかな味わいを秘めていた
時代にのみこまれていくせわしなさ
スピードばかり求めるこの時代
手作りのひと手間かける幸せに光がさしこみ
愛をそそいで作った大豆
鴨は水面(みなも)から飛び立ち
朝ぼらけに「畑の肉」がきっと春の足音を連れてきてくれるだろう

お師匠さん   丸山 榮



週に一度 隣の三味線のお師匠さんの家に
唄と三味線を 習いに行っています
月日はドンドン 流れていくのに
私の腕は なかなか あがりません
今年 八十才となり
今もって 腕はあがらず 絶望的
今では ボケ防止として 楽しんでいます

そんなとき
三味線の独演会を 開こうという話になり
コロナの中 皆んな 張りきって
十二月三日を むかえました

私は三味の流れる音に 引きずられ
別世界へと 入りこんでしまいました
七十年もの間 三味線の音の中に
すいも甘いも とじこめて
そこからはじける 三味の音は
江戸から明治へと 
なんとも 素晴らしい生活に
夢みる夢子と なりました
「よかった」「よかった」

子猫のミミちゃん   丸山 榮



ある日 ガラス戸を開けた その透き間から
あれ あれ と思う間もなく 上がりこんできた 子猫ちゃん
「ここが 私の お家なの」
というように あどけない顔で 私を見上げる
その言葉は 全く その通りで
その日から 我が家の一員となったのです
名前は ミミちゃん
ところが どっこい
いつも 私の後を 追いかけて
ミャー ミャー ニァー ニァー
もう 大変
やがて人間様の言葉を 理解し
ゴハンの 前で
「おすわり」そして「まて」と言われると
「よし」と最後に言われるまで
お座りをしたまま 待っているのです
「ゴワン」「ゴワン」という言葉を覚えると
朝昼晩と お腹がへってくると鳴いては 催促するのです
それで 今では デブちゃんに なってしまいました

若いんですネ
外に行きたくて 行きたくて
風呂場やトイレのガラス戸が 少しでも 開いていると
そこをぐんぐん おし開き
そこから 外へと 一目散
逃げて 遊んで ゆっくりと
お帰り時間は 夜中の十時すぎ
全く コマッタ ミミちゃんです

冬になると 夜は 私の布団の中に
「入れておくれよ」 と小さな 声で
一声 鳴いて そろり そろりと入りこむ
二人は ゆたんぽかわりに くっついて
朝まで一緒に 寝ています

仲良し こよしのお話でした

看護学校のころ   田島廣子



母は腹巻を私にきつく巻いた
 大阪に着いたらタクシーで行くとよ
柳ごおりに 布団 辞書 地図 アルバム

 廣子さん! 荷物も一番 来たのも一番よ
 この犬太郎と言うのよ よろしく 
と 看護学校の伊藤先生はやさしかった

注射の練習が始まると
ナスを買って そのナスに血管の絵を描き
ガラス注射器で刺した
次は生徒同士で採血をした
手がぶるぶる震えた 血を吸った

初めての病棟実習 
整形病棟の患者は全身火傷 
皮膚は引きつっていて怖かった
 その男飛びつくぞ
私は若い男の脈拍がはかれずに詰所に走った
 私が付いていくから大丈夫いらっしゃい

赤子の解剖が始まった
額に眼が二つ 真ん中に鼻らしきもの
鎖肛していた
昼食に鯨の肉が出たが食べられなかった

整形外科の講義 何時も医師は 
籠に骨をいっぱいいれて来られていた
終了のベルが鳴っても終わらない
誰かが筆入れをガタガタ動かし始めた
誰かが消しゴムを落とした
誰かが くすっと笑った
 昼ごはんがなくなる!!
講義が終わるや否や
六十二名の学生は 食堂に走った

次の日 看護学校の玄関に無言で
あの医師が脱疽で切断された大人の下肢を
大きな瓶にホルマリン漬けにされて
置かれていた 教材があった

朝はナイチンゲール誓詞を言って
夜は人員確認 おやすみなさいと挨拶
 ラーメンばかり食っていたら
 国家試験に落ちるわよ
教育主事の雪永先生は怒って叫んだ

バレーボール テニス スキー スケート
登山と よく遊んだ 
ああ 懐かしい
今も私の人生は看護学校にある 

見事な移動   佐倉圭史



観客席にひとりの新聞記者がいた
ダンサーが勢い良く回転した
そして新聞記者は「明日への道」を走った―
するとその翌日の新聞には
「竜巻が発生、今日も注意を」と出た
新聞記者はまたまた走った
「おとといへの道」を―
するとその翌日の新聞には、ダンサーの写真が
華々しく載った

<PHOTO POEM>淀ちゃんの大海原への恩返し   中島(あたるしま)省吾


二〇二三年、正月明け
淀川に迷い込んだクジラの淀ちゃん
死んだ
紀州沖の海に返された
死骸のプランクトンとか
ほかの魚によって食べられる
淀ちゃん、海に愛されて、大きく育った海原
太平洋に恩返しするようだ
本当に海が好きな淀ちゃん
私も関西詩人協会に恩返ししないと、と焦る
見習って素晴らしいから

<PHOTO POEM>若木と老師   長谷部圭子



若木の葉に
風がさらさらと歌を教え
雨がシトシトと詩を詠んだ
若木の樹皮に
太陽がギラギラと 生きる情熱を
月がゆらゆらと 休息のまどろみを
諭し教えるのだ
若木の細い腕に
木枯らしが 荒れ狂う孤独を
淡雪が ぽつりと消え入る儚さを
まだ幼く若い木立に 囁く
自然の老師は あらゆる表情を変えて
諭し教えるのだ
若木よ 君は聴こえるだろうか
厳しく やさしい この青い地球の片隅に 
ただ一人 顔を上げて ぽつんと佇む
覚悟という名の鼓動を

「心(あなた)」と共に   吉田定一



仲良くなったり
仲違(なかたが)いをしたりするのも 心(あなた)次第

その心を 誰も 誰ひとり
自分の眼で 見たものはいない

しばしば 人の顏の表情から
心の動きが 読み取れる

長々と話す 言葉よりも
なにげない仕草や 目の動きから――

その動作や瞳のサインに気付かず 見落として
幸せな贈り物を 見逃がしたりする……

「好きよ と云っているでしょう!
 判らないの? このお馬鹿さん‼」

心は この世で いちばん優しくて
いちばん暖かい たまに醜い心になっても…

どんな時も 胸に鍵を掛けておこう
心を 逃げ出させないようにしなくちゃ

(何時だって 心(あなた)と一緒だ)

生きるボクの いのちの傍にいてくれ!
心(あなた)を失っては 私は私でなくなる

踏みつぶされた花より   阪南太郎



一時期は上を向く気力を失った私を
照らし続けて下さる
お日様
ありがとうございます

乾ききった私の体に
宝石のような水玉を与えて下さる
雨雲様
ありがとうございます

暗闇の中で孤独に震えていた私を
見守って下さる
すべてのお星様
ありがとうございます

私は必ずもう一度咲きます
疲れ切った虫たちに飛ぶ力を与えるためにも

お母さん死んで手術の保証人がいない ~二〇二二年年末~   中島(あたるしま)省吾



余命が過ぎてるがどうなっているんだろう
これが出てるころ、まだ生きてるか?

今は二〇二二年、一二月三〇日、午後二時ごろ
男性専用の訪問看護と称する作業療法士の男性N崎が
一週間に一回のいつもの類で来た
年末年始は困る
カップラーメンと、米といで、米だけの食事生活だ
おかずを作る人はいない
普段からいないが
田舎だから年末年始、コミュニティバスの交通が中止され、
近所の惣菜を買うスーパーも閉まる
N崎が私の血圧計ると二○○
服脱げと言われて、服脱いで計ると一九〇
もう、終わりかもしれない
N崎はなんかの医療書にサイン要求
服脱いで寒いので着替えてると、ところどころに、先、書けと
防寒着が先やと私
サイン要求で腕を捻る
もう待たれへん、誰も助けないと
服着替えるのに時間待っていたら、家に来てから五分で、罵声を飛ばして帰った
滞在五分以上待てなかったのだ
クリスマスで理解した
NHKのテレビドキュメンタリーで訪問診療の医者の奮闘記があった
寝たきりのお爺さん、誕生日は家族がケーキ作ったり、
ハッピバースデーを歌われて、ろうそくを消す
家族しかできないのだ、そうとうな、はみだし医療者以外では、だ
訪問医療の医者はドアを開けて、言葉のみで、
寝たきりに九〇歳だ、おめでとうと、祝う
医者の差し入れはなく
医者の差し入れとしては仕事として、
食生活を奥さんに教えたりとか、血圧計ったりなど

家族って大事だな

私のほうはというと
クリスマスはアベックに絡まれるので外には出なかった
もちろん、プレゼントもない
クリスマスも米とカップラーメンのみだった
こんなんでほったらかしで、一週間に一回一時間の
家事援助の男性専用男性ヘルパーサービスもなかった
涙が出る
あちこちで、ハゲや、ストーカーや、警察呼ぶで、とか、
夢ではなく、現実にあったキリスト教会除名追放者だ(サタンだ)とか、
メタボだとか言われて
終活しかない
障がい者施設も優先順位が最初は二人待ち、今、四八人待ち、
一人暮らし出来て、腰が痛がっても階段四階まで上がり
カツアゲに遭いながらも、買い物に一人で行けてるから、
自立出来てるから優先最後だ
今日の朝、昼の二時で、年始まで閉まる近所のスーパーの帰りに
アベックがイチャイチャされてきて
男のほうは十字斬って、カツアゲで財布の中身とられた
顔も名前も何もかもわからない、カメラもない田んぼのとこなので
警察に独りぼっちで対応できないので
想い出せないので
これ以上、ワンマンで対応、望まない
反対に独りぼっちの取調べ、記憶脳内戦争になって血圧上がるので
下手したら、想い出すまで警察署の留置場もあったので
あえて、警察には言わない
カツアゲのアベックに携帯電話でムービー撮ると、携帯真っ二つか壊される
難しい人間だ

自教会長老壮年SSに言っても、私に責任があると、私がすべて悪いと言ってくる
他教会自由に行かな不幸になると
信仰なくして不幸は当たり前だからという脳でオワッている
私の人生は怖い
さあ、広い海で癒されに来た
見えないように水に隠れた自教会長老壮年SSがオヤジギャグにも、アナログにも
ハッポースチロールに乗せた私を大海に無理やり
浮かべてそーと大海に押して来る
よその教会に申し送りなしで任せて逃げた

正統派のクリスチャン信仰なくして不幸は当たり前だからという脳でオワッている
私の人生は怖い
私は一人ではなにもできない、
地域移行行政では、一人では生きられない障がい者だ
こんな常日頃、奴の想いのままに操作して来る壮年SSしか
電話番号教えてくれなかったので、
新しい出逢いも婚前交渉サタンで、それはなしで、ここで寸止めだ
私自身、ハゲて来たが、ハゲはハンデではないと壮年SSが言って来る
ふらんすではハゲはモテモテで、ハゲはハンデではないと、
ちゃんと正確に伝えないといけないからと
オワッてる壮年のイシアタマに困っても困り切っている
どうも私は日本人なようだ
NHKの深夜の空からのクルージングというドキュメンタリー番組で
フランスの山川が映っている
日本の森林と違う
ポップな木に、レンガ造りの森の家の方々がサングラスをかけて、
ハンモックに揺られて川辺で読書している
日本では日本らしい木々の中で、
山の神さまと言い、感謝し、水を手でくんでいただく
弱く、優しく、美味しいアユをいただくが
ふらんすでは、バスが泳いでいる

あたるしましょう子なのに   中島(あたるしま)省吾




電子書籍の新作「詩集 あたるしましょう子」ぜひ、読んでください
今、二〇二三年一月
ヘルパー所も休みだ
唯一の男性専用男性ヘルパーがコロナで休み
耳がボワンボワンとする
ベースの重低音が耳に響く
カップラーメン食べたあとの、昼の二時、睡眠薬呑んだ
身体がおかしいのでひとまず寝る
過去に言われた余命が過ぎてるが
やっとこさ余命が迫ってきた気がする
最近、血圧で二○○出た
もう、終わりかもしれない
訪問看護帰って、息ができなかった、狭心症もあるのだ
睡眠薬と龍角散呑んだらマシになってきた
私は佛教の輪廻転生か、ニーチェの永劫回帰信じているので
次は女の子になって良いようになりたい
同じお母さんから出るなら永劫回帰だ
キリスト教会信じてえらいメに遭った
来世はキリストさんから反れるように努力する
お母さん死んでから独りぼっちでえらいメに遭った

今、受話器、おまわりさんに切らんと置いてもらっています

黒い領主   升田尚世



闇のなか
瞬きもせずに待っている
幾年を吹きわたる風が
樹々を揺らし
季節の花びらを
ふるわせる

ここは
哀しみに立つ砦
黒い領主は待っていた
その夜の到来を
向日葵みたいな月だ

― さあ、あかない窓をひらけ! ―

色彩は歌い
映像は踊りだす
氷河の時代
古層深くに
凍らせた痛みから
解(ほど)かれ離れるとき
起源の約束が果たされる

静かに眼を閉じ
ふたたび開く
入ってきた風に
問いかける
「お前は何を学んだ?」
小さく風が笑った
領主もやさしく微笑んで
金の盃を飲み干した


         *パウル・クレー《黒い領主》(1927年)

リフレイン   加藤廣行



ハンバーガー屋でメニューボードを見上げてたら
お決まりでしたらどうぞ
これは詩的である
ハンバーガー屋でメニューボードを見上げて考えてたら
お決まりでしたらどうぞ
ハンバーガー屋でメニューボードを見上げて迷っていたら
お決まりでしたらどうぞ
あざやかなリフレイン

駅の二階
この下で道が東西へ
南北へ
交易の仕切り場だから
ブツとゲンナマがところを替える
行き交うのが鉄道であり船であり手形であり
要は一瞬の先乗り
早ければ明日が安泰だ
駱駝を枕に月が昇る
それとも煮え湯を飲みに引っ込むか
コーヒーっぽいやつを

言葉はひねり次第
投げつける手捌き
帳簿なんかいくらでも作ってやる
売り買いは取引だ
カウンターで砂が波が発車のベルが
ごゆっくりどうぞ
後から来たのに声のサービス
ごゆっくりどうぞ
もっと後から来たのに声のサービス
ごゆっくりお待ちください
俺に無言のリフレイン

水仙郷ララバイ   白井ひかる



透明ではあるが
黒く光る球体のようなものが
心の中に居座っていて
何かしなければならないという
ジリジリとした思いに
囚われていた

新学年がスタートする前のカレンダーには
ぽっかり空白があった
それを埋めるためなら
なんでも良かったのだが
瀬戸内の水仙を見に友人を誘って
フェリーに乗り込んだ

デッキに立つと
吹く風はまだ真冬の冷たさだった
これ編んでみたから あげる
彼女はそう言うと
不思議な色合いのマフラーを差し出した
手芸屋さんのバーゲンでね
最初見たときはゴミかと思ったよ
でも編んでみたら意外と綺麗

空へ飛んでいきそうなくらいに
たっぷりと空気を含んだラメ入りのマフラーは
目の前の春を予感させるピンクがかった綿菓子雲と
日の光にキラキラと煌めく青い海を織り交ぜて
淡く輝いていた

水仙郷と名付けられた広大な水仙畑は
海に臨む急斜面の山肌一面に広がる
満開を過ぎていたせいかすれ違う人もまばらな遊歩道を
わたしたちはゆっくりと歩いた
夕方 宿に入り夕食を終えて部屋に戻ると
話はいつしか卒論のため
お互いに所属している研究室の話になり
やがて熱を帯びていった

モノが何で出来ているのかを分析して知ることが
科学の基本ではないのかな
悩んだすえ分析化学を専攻したわたしの言葉を
生化学を専攻した彼女は語気を強めて遮った
でも 生命現象を解明する生化学の重要度に比べれば
分析は縁の下の力持ちだよね
それ以降の会話の記憶はない

翌朝わたしは彼女に気づかれないようにひとり
宿を出てフェリー乗り場に向かった
早朝の海は穏やかで
絵葉書のように静まり返っている
始発に乗り込み
来た時と同じようにデッキに立つと
ふいに真夏に彼女と旅したことが甦ってきた
電車はひた走り別れの時刻が近づいている
夕日は車内を真っ赤に染め
並んで座っていたわたしたちを焦がしていった

遠ざかる港の向こうに
まだ彼女はいる
わたしは首からマフラーを外し
海へ投げ入れた
マフラーは海の光となった

遊びから今戻ったかのように   藤谷恵一郎



寒い国からやっと脱け出せ
莟が開いてゆくように
おまえは私のそばに来て 私に呼びかける

苦しみからやっと脱け出せ
もう二十年も姿を見せていないおまえが
遊びから今戻ったかのように
春風のように
私のそばに来て 私に呼びかける

のっぴきならぬ仕事からやっと脱け出せ
やはり姿を見せないまま
幼かったころのように
それでいて懐かしそうに
私のそばに来て 私に呼びかける

お父さん