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ホーム > 小説・童話 > 今日だけの女 短編小説集

今日だけの女 短編小説集

著者
下村和子
サイズ
四六版
304ページ
製本
ソフトカバー
ISBN
978-4-86000-263-3 C0093
発行日
2013/10/10
本体価格
1,500円

個数  

人間の放つ光と、
背負う影、
その微細な色まで
描ききったことばの絵筆。

十二編の短編は  
読者の心の中で交響し、
いつしか大きな
曼陀羅絵となるだろう。 


=== 目 次 ===

駅裏
刺繍曼陀羅

窮鼠
へんろみち
縄文杉
手の記憶

荒野の歩き方
アメリカみやげ
今日だけの女
私のユートピア

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 和菓子屋の主婦が教えてくれた靴修理店は、ガード下を抜け出るとすぐに見つかった。その気で探さねば気づかないほどの、小さな箱型の店が、うどん屋の前にあった。
 田井葉子は、無惨にへし折れた靴を片手にぶら下げて、その箱の戸を開けた。それでもきちんとガラス戸がはまっているのに感心しながら、頭を低くして中へ入った。
「ごめんなさい。ちょっとお願いしたいんですけど……」
「ああ、どないしたんや。まあ掛けなはれ。今ちょうど空いたとこや」
 七十近いかと見える小肥りの靴屋が、洟をふきふき言った。
「寒そうな顔して。顔まっさおやで。まあ、あたんなはれ」
 葉子の方に、赤く燃えた練炭のコンロを押しやってくれたおやじの顔は、汚れてはいるがシャルル・ボワイエに似ていた。

(「駅裏」より)